開業費の償却はいつやる?任意償却で節税するタイミングと仕訳を解説
開業費を帳簿に登録した。
でも、これっていつ経費になるの?──そんな疑問を持っていませんか。
開業費は登録しただけでは経費にならず、「償却」という手続きが必要です。
そして個人事業主には、この償却を自分の好きなタイミングで・好きな金額だけ行える仕組みがあります。
この記事では、開業費の償却の2つの方法と、節税に有利なタイミングの考え方を解説します。
※ 開業費の基本(何を入れるか・日付のルール)はこちらの記事で解説しています。
そもそも「償却」とは何か
償却とは、帳簿に載せた資産を「経費」に変換する手続きのことです。
開業費は税務上「繰延資産」として扱われます。 これは「いずれ経費にできるけど、登録した時点ではまだ経費ではない」という状態。 償却してはじめて、確定申告の「経費」として売上から差し引けるようになります。
つまり、開業費を帳簿に入れただけで安心してはいけない。 筆者も初年度の確定申告のとき、「あれ、開業費が経費に入ってない…?」と焦った経験があります。
開業費の償却方法は2つある
| 任意償却 | 均等償却(5年) | |
|---|---|---|
| 概要 | 好きな年に・好きな金額だけ経費にできる | 5年間(60ヶ月)で毎年均等に経費にする |
| タイミング | 完全に自由。0円の年があってもOK | 毎年一定額を計上(変更不可) |
| 節税の柔軟性 | ◎ 利益が出た年に集中投下できる | △ 利益が少ない年にも計上される |
| 手間 | 毎年「いくら償却するか」を判断する必要あり | 一度決めたら自動的に計上 |
| おすすめの人 | 売上が年によって変動する人(ほとんどの個人事業主) | 毎年安定した利益がある人 |
結論:個人事業主は「任意償却」一択です。
開業初年度は赤字や低利益になることが多いので、利益が出た年まで温存できる任意償却のほうが圧倒的に有利。均等償却を選ぶメリットはほとんどありません。
任意償却の「いつやるか」戦略
任意償却の最大のメリットは、節税のタイミングを自分でコントロールできることです。 具体的にどう判断するか、パターン別に見ていきます。
パターン①:開業初年度は赤字 or 低利益 → 償却しない
開業1年目は売上が少なく、経費も多くなりがちです。 すでに赤字なら、これ以上経費を積んでも税金は減りません。 開業費はそのまま温存して、翌年以降に持ち越すのが正解です。
パターン②:2年目以降に利益が出た → ここで償却
売上が伸びて利益が出てきた年が、償却のベストタイミングです。 開業費を経費として投下することで、所得を圧縮して税金を減らせます。
たとえば開業費が30万円あり、2年目の事業所得が200万円なら:
- 償却しない場合:200万円に対して課税
- 30万円を全額償却:170万円に対して課税
- 差額の約3〜4.5万円(税率15〜23%として)が節税額の目安
パターン③:大きな売上が立った単発の年 → まとめて投下
フリーランスは年によって収入に波があります。 大型案件が入って一時的に利益が跳ねた年に、開業費を一気に償却してしまうのも有効な手です。
パターン④:開業費が少額(数万円) → 初年度に全額やってしまう
開業費が5万円以下くらいなら、節税効果も小さいので、初年度に全額償却して帳簿をスッキリさせたほうが管理が楽です。 温存するほどの金額でなければ、シンプルさを優先しましょう。
【実体験】初年度に償却しなかった理由
筆者の場合、開業費として計上した金額は約8万5千円でした。 名刺、ドメイン、書籍、セミナー参加費などの合計です。
開業1年目は売上が小さく、青色申告特別控除(65万円)だけで所得がほぼゼロになる見込みでした。 ここで開業費を償却しても、もともと税金がかからない状態なので意味がない。
そこで1年目は償却額をゼロにして、2年目以降に持ち越すことにしました。
この判断ができたのは、任意償却のルールを事前に知っていたから。 知らなければ「登録した年に全部経費にするもの」と思い込んで、節税のチャンスを無駄にしていたかもしれません。
開業費償却の仕訳(実際の帳簿の書き方)
償却するときの仕訳は、とてもシンプルです。
全額を一括で償却する場合
| 日付 | 借方 | 貸方 | 金額 | メモ |
|---|---|---|---|---|
| 12/31 | 開業費償却 | 開業費 | 85,000円 | 開業費の全額を任意償却 |
一部だけ償却する場合(例:半額)
| 日付 | 借方 | 貸方 | 金額 | メモ |
|---|---|---|---|---|
| 12/31 | 開業費償却 | 開業費 | 42,500円 | 開業費85,000円のうち半額を任意償却(残り42,500円は翌期以降に繰越) |
日付は年末(12月31日)にするのが一般的です。 年間の利益が確定してから「いくら償却するか」を判断できるので、決算整理仕訳として年末に入れます。
注意:「開業費」と「開業費償却」は別の勘定科目です。
「開業費」は貸借対照表の繰延資産。「開業費償却」は損益計算書の経費。この2つを混同すると帳簿が合わなくなるので気をつけてください。
確定申告書にはどう書くのか
開業費を任意償却した場合、確定申告書(青色申告決算書)では以下のように扱われます。
損益計算書
「開業費償却」は経費の一種として、損益計算書の「その他の経費」欄に記載します。 freee会計やマネーフォワードを使っていれば、仕訳を入れるだけで自動的に反映されます。
貸借対照表
未償却の開業費がまだ残っている場合は、貸借対照表の「繰延資産」の欄に残額が表示されます。 全額償却した年は、この欄がゼロになります。
会計ソフトでの開業費償却の入力方法
操作自体は「仕訳を1行入れるだけ」です。
- 日付を12月31日に設定
- 借方:「開業費償却」(経費科目)
- 貸方:「開業費」(繰延資産科目)
- 金額:償却したい金額を入力
- メモ:「任意償却」と書いておく
会計ソフトによっては「決算整理仕訳」や「年末調整」のメニューから入力する場合もあります。
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開業費償却のよくある疑問
Q. 任意償却に期限はある?
ありません。 極端な話、10年後に償却しても構いません。 ただし、あまりに長期間放置すると帳簿が複雑になるので、利益が出たタイミングで早めに処理するのが現実的です。
Q. 一度「今年は0円」と決めた後、翌年に全額償却してもいい?
はい、問題ありません。 任意償却は文字どおり「任意」なので、毎年の償却額を自由に決められます。 0円→0円→全額、という流れもOKです。
Q. 均等償却を選んだ後に任意償却に変更できる?
原則としてできません。 最初に選んだ償却方法を継続する必要があります。 だからこそ、最初から任意償却を選んでおくことを強くおすすめします。
Q. 青色申告じゃなくても任意償却できる?
はい、任意償却は白色申告でも使えます。 ただし、青色申告の65万円控除と組み合わせたほうが節税効果は大きくなります。
まとめ ── 開業費の償却で覚えておくことは3つだけ
- 任意償却を選ぶ。個人事業主にとって均等償却を選ぶメリットはほぼない
- 利益が出た年に償却する。赤字の年に償却しても節税効果がない
- 仕訳は「開業費償却 / 開業費」の1行だけ。日付は12月31日
開業費の金額自体は数万〜数十万円程度のことが多いですが、「使うタイミングを選べる経費」は他にあまりありません。 このカードを有利に使うために、任意償却のルールだけは覚えておいてください。