2026.07.06
個人立替とは?事業主借・事業主貸の違いと仕訳の書き方をやさしく解説
コンビニで事業用のボールペンを買った。
支払いは、ポケットに入っていた自分の財布から。
帳簿をつけようとして、ふと迷います。
「プライベートのお金で払ったけど、これ、どう記帳するの?」
個人事業主にとって、この「個人のお金で事業の支払いをする」ケースは日常的に発生します。
法人と違い、事業用口座とプライベート口座が完全に分かれていないことも多い。
むしろ、分かれていない方が普通です。
このとき使うのが「事業主借(じぎょうぬしかり)」と「事業主貸(じぎょうぬしかし)」という2つの勘定科目です。
名前は難しそうですが、仕組みはとてもシンプル。
この記事で一度理解してしまえば、もう迷うことはありません。
先に結論
- 事業主借 ── プライベートのお金で事業の経費を払ったとき
- 事業主貸 ── 事業のお金をプライベートで使ったとき
- どちらも年末に自動で相殺されるので、返済・精算は不要
- 何回使っても問題なし。多すぎて怒られることはない
- 迷ったら「お金の出どころ」だけ考えればOK
「事業主借」と「事業主貸」── たった1つの判断基準
2つの科目を使い分ける基準は、これだけです。
| 状況 | 使う科目 | 覚え方 |
|---|---|---|
| プライベートのお金 → 事業の支払い | 事業主借 | 事業が個人から「借りた」 |
| 事業のお金 → プライベートの支払い | 事業主貸 | 事業が個人に「貸した」 |
主語は常に「事業」です。
プライベートのお金で経費を払った → 事業が個人から借りた → 事業主借。
事業のお金で私物を買った → 事業が個人に貸した → 事業主貸。
これだけ覚えておけば、もう間違えません。
事業主借 ── よくある仕訳例
個人事業主が圧倒的に多く使うのは「事業主借」の方です。
プライベートのクレジットカード、現金、PayPayなどで事業の支払いをしたケースが該当します。
例① プライベートの財布で文房具を買った
| 日付 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|---|
| 7/6 | 消耗品費 | 980 | 事業主借 | 980 | ボールペン・ノート購入 |
例② プライベートのクレジットカードで通信費を払った
| 日付 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|---|
| 7/6 | 通信費 | 3,278 | 事業主借 | 3,278 | 携帯電話料金 7月分 |
例③ プライベートのお金でiPadを買った
| 日付 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|---|
| 7/6 | 消耗品費 | 58,800 | 事業主借 | 58,800 | iPad購入 |
例④ プライベート口座に売上が振り込まれた
| 日付 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|---|
| 7/6 | 事業主借 | 50,000 | 売上 | 50,000 | ○○案件 報酬受領 |
事業用口座ではなくプライベート口座に売上が入った場合、借方が「事業主借」になります。
「事業がプライベートから現金を借りた形で売上を受け取った」と考えます。
事業主貸 ── よくある仕訳例
事業用のお金をプライベートに使ったケースです。
頻度としては事業主借より少ないですが、生活費を事業口座から引き出す場面などで使います。
例⑤ 事業用口座からATMで生活費を引き出した
| 日付 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|---|
| 7/6 | 事業主貸 | 100,000 | 普通預金 | 100,000 | 生活費引き出し |
例⑥ 事業用口座から私物の本を購入
| 日付 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|---|
| 7/6 | 事業主貸 | 1,650 | 普通預金 | 1,650 | 私用書籍購入 |
例⑦ 家事按分で経費にならない部分
家賃10万円のうち事業使用30%だけ経費にする場合、残り70%は「事業主貸」です。
| 日付 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|---|
| 7/31 | 地代家賃 | 30,000 | 普通預金 | 100,000 | 家賃 7月分(按分30%) |
| 事業主貸 | 70,000 |
よくある疑問
Q. 事業主借・事業主貸が多すぎると問題になる?
なりません。
事業主借が多い=プライベートのお金で経費を払っているだけ。事業主貸が多い=生活費を事業口座から出しているだけ。
どちらも個人事業主として当然のことで、税務上の問題は一切ありません。
「事業主借が多いと税務調査で指摘される」という情報をたまに見かけますが、事業主借の金額そのものが問題になることはありません。指摘されるとすれば、経費の中身(本当に事業で使ったのか)であって、支払い方法ではありません。
Q. 事業主借・事業主貸は年末にどうなるの?
年末の決算処理で、事業主借と事業主貸は差額が「元入金」に振り替えられて相殺されます。
つまり、翌年にはゼロからリスタート。「借りたお金を返す」仕訳は必要ありません。
会計ソフトを使っていれば、この振替処理は自動で行われるので、手動での操作は不要です。
Q. プライベート口座しかない場合は?
事業用口座がなく、プライベート口座で事業もしている場合でも帳簿はつけられます。
売上の受取 → 事業主借、経費の支払い → 事業主借、生活費の引き出し → 事業主貸。
すべて事業主借・事業主貸で処理すれば問題ありません。
ただし、管理が煩雑になるので、事業が軌道に乗ったら事業用口座を分けることをおすすめします。ネット銀行なら無料で開設できます。
Q. 会計ソフトではどう入力する?
マネーフォワードやfreeeの「簡単入力」では、支払い方法で「その他(プライベート資金)」や「プライベート資金」を選ぶだけ。
自動的に「事業主借」として処理されるので、科目名を覚える必要すらありません。
事業主借・事業主貸の判断フローチャート
迷ったときは、この順番で考えてみてください。
- 何のお金を使った?
→ プライベートのお金なら「事業主借」方向。事業のお金なら「事業主貸」方向。 - 何のために使った?
→ 事業のために使った=経費。プライベートのために使った=事業主貸。 - 仕訳を組み立てる
→ 借方に経費科目(通信費、消耗品費など)、貸方に「事業主借」。
→ または借方に「事業主貸」、貸方に「普通預金」。
ほとんどのケースは「プライベートのお金で事業の支出を払った → 事業主借」です。
これだけ覚えておけば、日常の記帳で困ることはまずありません。
まとめ ── 迷ったら「お金の出どころ」を見る
- 事業主借:プライベート → 事業(経費の支払いなど)
- 事業主貸:事業 → プライベート(生活費の引き出しなど)
- 年末に自動で相殺される。返済処理は不要
- 何回使っても、いくら使っても税務上の問題はない
- 会計ソフトなら「プライベート資金」を選ぶだけ。科目名を覚えなくても大丈夫
個人事業主は、法人と違って事業とプライベートのお金がどうしても混ざります。
それは悪いことではなく、「そういう仕組み」です。
事業主借・事業主貸は、その混ざりを帳簿上で整理するためだけの科目。
一度仕組みを理解してしまえば、経費の記帳がぐっと楽になるはずです。